西岡小十-5 絵唐津茶碗 見込み

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 西岡小十の絵唐津(皮鯨)茶碗の見込みです。写真では、茶碗正面を下にしています。

 上から見るこの茶碗は、乱れの少ない真円形です。口縁も少々凸凹していますが、比較的均一で、薄手に作られていますから、何処に口を付けて飲んでも快適です。

 見込みの中は、外側とほぼ同じような景色で、荒々しい轆轤目や大きな砂粒による凸凹が自然な不規則性による美しさを湛えています。底はなだらかな曲線で凹んでおり、茶溜りは明確ではありません。

 このように人工的な規則性と自然な不規則性が見事に融合した美しさは、西岡小十の作品の中でも、特に晩年の物に強く表れています。若い頃の作品と思われる物は、もっと人工的な規則性が強く主張していて、「作り込んでやろう」という、やや肩に力が入った作風のように見えます。晩年になって力が抜け、無理に作り込まなくなったからこそ、自然な不規則性が多く入り込み、結果的に規則性と不規則性が融合した美しさが強まって行ったのでしょう。歳を重ねる毎に不規則性を取り込んだ作風に変化し、規則性と不規則性が融合した美しさを生み出す作風になっていくというのは、多くの高名な陶芸家で見られる傾向だと思います。

つづく
posted by 笹九百家 at 12:00Comment(0)唐津

西岡小十-5 絵唐津茶碗 背面と両側面

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 西岡小十の絵唐津(皮鯨)茶碗を各方向から写しています。上の写真が背面(掻き銘側)で、二枚目が正面向かって左側面、三枚目が右側面です。

 口縁の着色の太さが異なるぐらいで、後は凡そ正面と同じような景色です。やや低い高台の上に乗った少しカワイイ感じの椀形のシルエットに、荒々しく残された轆轤目、大きな砂粒による凸凹、石爆ぜしかかった跡等があり、釉薬が擦れたような箇所もあります。正面と同じような景色だけなので、茶碗をクルクル回しながら眺めて楽しむというような事には意味がない一方で、何処から見ても茶碗全体の美しさ・雰囲気を堪能できる良さがあります。

 釉薬は、唐津で一般的なグレーの釉薬ですが、この茶碗ではその厚みにムラがあり、地の陶土が透けて見えそうな個所もあります。こういう釉景も、この茶碗の美しさの一つです。

つづく

西岡小十-5 絵唐津茶碗 正面

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 西岡小十(1917-2006)の絵唐津茶碗です。西岡小十の作品は、これで五つ目です。写真では、口縁の黒い着色が最も太くなっている部分を正面としています。ここを正面とすると、掻き銘は背面側に来ます。

 絵と言えるような物はなく、口縁部分だけが黒く着色されているので、これは一般的に「皮鯨」と呼ばれる茶碗です。西岡小十の作品の場合、こうした皮鯨茶碗を「唐津皮鯨茶碗」と箱書きするパターンと、皮鯨でありながら「絵唐津」を箱書きするパターンの両方があるようで、中古市場では両方のパターンが見られます。一般的な「絵唐津」でも「皮鯨」でも、線画にするか口縁の縁取りにするかが違うだけで、手法的には同じ物なので、皮鯨を絵唐津の一つとして考える事が出来ます。ですから、「絵唐津茶碗」と書かれた箱に「皮鯨茶碗」が入っていても、間違っているとは言えません。多分、製作した時の気分とか、そういうあやふやな要素が働いて、箱書きが書かれているのでしょう。

 この茶碗は、かなり晩年の作品だと思われ、荒々しい轆轤目が残され、大きな砂粒が爆ぜかけたような部分が幾つもあって、整えられていない不規則性が強く表れています。それでいて絶妙なバランスで整形されていて、全体としては均整の取れたシルエットをしています。人工的な規則性と自然な不規則性が見事に融合した美しい茶碗です。

つづく