
愛知県豊田市で作陶している鈴木五郎(1941-)の織部茶碗です。写真では、もっとも広く絵が描き込まれている部分を正面としています。ここを正面とすると、高台脇の掻き銘は、向かって右90°よりも少し手前側に来ます。
現在は豊田市で作陶しているそうなのですが、鈴木五郎は元々は瀬戸で焼物を始めたとの事で、基本的には瀬戸系の陶芸家と言えるのではないかと思います。ですからネットで鈴木五郎を検索すると、織部や黄瀬戸といった作品が多くヒットします。作風としては、現代の陶芸家らしく、コッテリぐにゃぐにゃした大胆な物が多いようです。
今回の茶碗は、そこまでコッテリぐにゃぐにゃしている訳ではなく、腰の辺りの箆削りの跡がくっきり残されている等、どちらかと言えば少しシャープな雰囲気に仕上がっています。少し腰が張った半筒のシルエットに、白の釉薬をベースに織部のお約束である緑色の着色が施されています。ただ、一般的な織部で見られる左右側面2か所への着色ではなく、大まかに3か所への着色になっています。
正面の絵は、ぐるぐると如何にも適当に筆を走らせた線画となっています。このテキトーさが、この絵が茶碗の主役ではない事を物語っています。絵の自己主張が比較的強く出る織部作品が多い中にあって、こういう雰囲気の絵は珍しいのではないでしょうか。
胴には横に線彫りが走っていますが、これは腰の辺りから螺旋状に口縁に向かって一本線で彫られており、これも織部では珍しい装飾だと思います。
このように、一見織部らしい景色でありながらも、良く見ると織部のお約束に沿わない要素が非常に多い面白い茶碗です。
つづく