中村与平 お福茶碗 高台

お福茶碗_03
 お福茶碗の裏からの景色です。まるで型で抜いたように整った高台や、高台内の綺麗な渦巻き、「与平」の窯印などが見えます。典型的な磁器の景色です。

 磁器らしいこういった整った造形というのは、人による造形美の一つだとは思うのですが、私にとっては整い過ぎてて面白味に欠けます。設計図にはなかった偶然による乱れ、人智や人の作意を超えた自然の力による揺らいだ景色。そういった物を極力排除していく方向性は、それが難しかった昔は高い意義があったかと思いますが、工業化による大量生産が行われ、人による整った造形が身の周りに溢れている現代に於いては、むしろ当たり前になってしまって、鑑賞や愛玩の対象となり難くなっていると思います。
 私にとっての抹茶茶碗は、鑑賞や愛玩の対象です。ですから、私は整った茶碗より、乱れや揺らぎの多い茶碗の方が好きです。この茶碗で実際に抹茶を味わった事がない理由は、こういった所にもあります。

おわり

中村与平 お福茶碗 正面

お福茶碗_02
 お福茶碗の正面です。「福」と書かれています。如何にもおめでたい、縁起物っぽい装飾です。また、見込みの絵柄を引き立てるためか、この正面には「福」以外のものは描かれていません。ほぼ真っ白です。

 非常に整った碗形のフォルムですが、やや直線交じりの硬いシルエットになっています。見込みの和やかな雰囲気と違って、やや緊張感のある正面の景色です。綺麗に揃った轆轤目やほぼ真っ白な色合いも、一層緊張感を高めます。

 良く考えてみると、この茶碗の最大の見所は、緊張感のあるこの正面ではなく、和やかな見込みの絵柄にある訳で、こういう茶碗は他には余りありません。そういう意味で、顔を見込みにあしらったこの手の茶碗は面白い存在です。

つづく

中村与平 お福茶碗 見込み

お福茶碗_01
 京都の清水焼という事になるのでしょうか。中村与平(1950~)のお福茶碗です。これも以前から我家にありました。多分、やはり何かのお土産で貰った物だと思います。

 ふくよかで柔和な顔の表情がイイ感じです。

 中村与平の色絵磁器は、新品でも買いやすい価格の物が多く、描かれている絵が気に入れば悪くない選択だとは思うのですが、ただ、このお福茶碗に関しては・・・。う~ん、どうでしょう、私はこれで抹茶を点てる気にはどうしてもならないんです。抹茶を味わうための茶碗と言うより、贈答品、縁起物、お土産とか、そういう感じの器だと思うのです。それに、実際にこれに抹茶を入れると、せっかくのお顔が見えなくなってしまいます。飲み終った後も、やはり底に残ったお茶がお顔の邪魔になります。ですから、私はこの茶碗を一度も使った事がありませんし、鑑賞のために取り出すという事もありません。

 見込みに顔が描かれ、器自体の造形も顔の輪郭にしてある抹茶茶碗というのは、このお福茶碗の他にも、「おかめ」とか「ひょっとこ」とかもあるようで、一つの伝統定番となっています。この分野だけのコレクターも何処かに居そうです。面白い存在ではあります。

つづく