坂倉新兵衛-3 萩茶碗 正面

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 十二代・坂倉新兵衛(1881ー1960)の萩茶碗です。十二代・新兵衛としては二つ目、十四代も含めて「坂倉新兵衛」の茶碗としては三つ目の紹介となります。写真では、高台脇の窯印を向かって左90°の位置に持って来て、この向きを正面としています。

 萩焼「中興の祖」と言われるだけあって、やはり十二代・坂倉新兵衛の作品は素晴らしいと感じます。前に紹介した一個目の茶碗も素晴らしかったですが、今回のはもっと心に刺さります。

 悟り切った老人が瘦せ細った体に白い薄衣をまとって佇んでいる・・・。そういう仙人図のような景色の茶碗です。やや硬くシャープなイメージの椀形のシルエットに、細かく乱れの入った轆轤目が残り、そこに白い釉薬が薄くかかっています。口縁から高台まで細かく乱れがあり、整え過ぎない味わい深さがあります。陶土に含まれる細かい砂粒が器の表面に幾つも見られ、釉薬の細かい縮れも所々にあります。また、全体に薄手に作られており、轆轤目の細かさと相まって、不思議な繊細さを感じます。

 数ある萩焼の中でも、こういう枯れた雰囲気と繊細さの両方を備えた作品というのは多くはありません。また、広く陶磁器全体を探してみても、こういう味わいの茶碗には滅多に出会えません。流石、十二代・新兵衛です。

つづく

坂高麗左衛門-3 萩焼茶碗 高台と窯印

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 十一世・坂高麗左衛門の三つ目の萩焼茶碗の高台と窯印です。高台の写真では、茶碗正面を上にしています。

 高台は乱れのある真円で、高台内は渦巻き状に削られています。高台脇は、側面の溝模様からの続きでそのまま削られているような造形になっていて、興味深い所です。

 土見せはありませんが、整えない荒い削りと、透けて見える陶土内の砂粒などが、良い味わいを醸し出しています。

 窯印は「韓峯」です。因みに、十世も同じく「韓峯」の窯印なのですが、漢字の並びが異なっていたと記憶しています。また、十世の作品の中には「十世」と刻んだ掻き銘もあるようなのですが、それが本物なのかどうかは確認出来ていません。それと十二世の窯印は「熊峰」ですが、わざわざ「峯→峰」と異なる文字を使っているのが面白い所です。

 という事で十一世・坂高麗左衛門の三つ目の萩焼茶碗でした。枯れた中に上品な優しさも漂う良品です。

おわり

坂高麗左衛門-3 萩焼茶碗 見込み

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 十一世・坂高麗左衛門の三つ目の萩焼茶碗の見込みです。写真では、茶碗正面を下にしています。

 上から見るこの茶碗は、自然な乱れのある真円で、口縁は厚くもなく薄くもなく、ほぼ均一です。底は自然と湾曲しており、茶溜りは明確ではありません。

 良く見ると、見込みの貫入は側面よりも明確に色が付いていますが、これは実使用に伴って、茶渋等が貫入に浸み込んで行った為であろうと思います。それと、釉薬の細かい縮れも側面より多くあって、良く見える貫入と共に、枯れた美しさを作り出しています。

 9時位置の口縁から少し下がった辺りに、釉薬がかかっていない個所が一つあり、地の陶土が露出しています。これを欠点とみるか美点と見るかは、人それぞれでしょう。欠点・欠陥と考えると少し気持ちが萎えてしまいますので、ここは美人に特有の黒子とか、完璧でない所に生まれる美しさとか、そういう風に捉えたいと思います。

つづく