
唐津市にある三里窯の浜本洋好(1938-)による彫唐津の茶碗です。浜本洋好の茶碗を取り上げるのは三つ目です。写真では、高台脇の窯印を向かって左90°の位置に持って来て、この向きを正面としています。因みに、浜本洋好の場合、通常は窯印ではなく、掻き銘で「三」と入れられますが、この茶碗では窯印で「三里」と入っています。ですから、この茶碗は本人作ではなく工房作品であるか、又は少しグレードの低い半ば量産品に近い物かも知れません。
量産品に近い様子というのは、同氏の他の作品、特に掻き銘で「三」と入っている物と比べると良く分かります。それらでは、特に釉景に不規則性=自然な乱れが多く入り、景色として奥深さを感じるのですが、この彫唐津では、多少の不規則性はあるものの、比較的整った見た目をしています。特に釉薬の掛かり方が均一で、縮れや流れの類が非常に少なくなっています。
こういう作りは実用的で使いやすいのですが、道楽としての「茶の湯」で使うには少々味気ないものがあります。ただ、唐津焼というのは本来は実用食器としての性格が強いので、こういう実用的な茶碗というのは、唐津焼の本来的な姿だとも言えます。
また、私としてもスタンダードな彫唐津を一つは欲しかったというのもあって、お安く売りに出ていたこれを購入した次第です。
さて、この彫唐津では、乱れの少ない半筒のシルエットに大きな「×」の彫り模様が入り、そこにグレーの釉薬が適度に均一に掛かっています。これらは彫唐津のお約束とも言える特徴です。多分、実在の古唐津の名品とかに習った姿だと思うのですが、現代の彫唐津でもこうした特徴から逸脱した作品というのは、見た記憶が余りありません。多分、もっと違う姿の彫唐津の茶碗というのを現代の作家さんは何処かで作っているのだと思うのですが、私は殆ど出会ったことがありません。そもそも彫唐津の抹茶茶碗自体が中古市場で珍しく、ネットオークションとかでも年に何個かしか見られません。きっと需要が少ないのでしょう。力強い彫模様って、なかなか良いと思うのですが・・・。
つづく