鈴木五郎-1 織部茶碗 背面と両側面

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 鈴木五郎の織部茶碗を各方向から写しています。上の写真が背面で、二枚目が正面向かって左側面、三枚目が右側面(掻き銘側)です。

 背面から右側面にかけて小さめの線画が描かれており、これがメインとなる正面の絵に対するサブの絵になります。織部に限らず一般的な茶碗の場合、サブの絵というのは、背面の真ん中に描かれるのがお約束というものですが、この茶碗ではかなりズレた場所に描かれています。メインとサブの絵を入れるという点ではお約束通りなのですが、描き込む場所は崩しています。

 緑色の釉薬をかけている場所についても、一般的な織部が左右側面の二か所であるのに対して、この茶碗では左右と背面の三か所になっています。しかも、見込みにまで緑色が伸びているのは、右側面と背面だけになっています。

 各面の腰の辺りには箆削りの跡が見て取れます。特に背面にはザックリ抉られた凹みがあります。この削り跡が全体的にシャープなイメージを作り出しており、ぐにゃぐにゃした線画との対比で、独特の雰囲気を醸し出しています。

つづく

鈴木五郎-1 織部茶碗 正面

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 愛知県豊田市で作陶している鈴木五郎(1941-)の織部茶碗です。写真では、もっとも広く絵が描き込まれている部分を正面としています。ここを正面とすると、高台脇の掻き銘は、向かって右90°よりも少し手前側に来ます。

 現在は豊田市で作陶しているそうなのですが、鈴木五郎は元々は瀬戸で焼物を始めたとの事で、基本的には瀬戸系の陶芸家と言えるのではないかと思います。ですからネットで鈴木五郎を検索すると、織部や黄瀬戸といった作品が多くヒットします。作風としては、現代の陶芸家らしく、コッテリぐにゃぐにゃした大胆な物が多いようです。

 今回の茶碗は、そこまでコッテリぐにゃぐにゃしている訳ではなく、腰の辺りの箆削りの跡がくっきり残されている等、どちらかと言えば少しシャープな雰囲気に仕上がっています。少し腰が張った半筒のシルエットに、白の釉薬をベースに織部のお約束である緑色の着色が施されています。ただ、一般的な織部で見られる左右側面2か所への着色ではなく、大まかに3か所への着色になっています。

 正面の絵は、ぐるぐると如何にも適当に筆を走らせた線画となっています。このテキトーさが、この絵が茶碗の主役ではない事を物語っています。絵の自己主張が比較的強く出る織部作品が多い中にあって、こういう雰囲気の絵は珍しいのではないでしょうか。

 胴には横に線彫りが走っていますが、これは腰の辺りから螺旋状に口縁に向かって一本線で彫られており、これも織部では珍しい装飾だと思います。

 このように、一見織部らしい景色でありながらも、良く見ると織部のお約束に沿わない要素が非常に多い面白い茶碗です。

つづく

二十歩文雄-1 鼡志埜茶碗 高台と掻き銘

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 二十歩文雄の鼡志埜茶碗を下から写しています。高台の写真では、茶碗正面を上にしています。

 乱れのある真円形をしている高台の直径は小さめで、高さは低く、更に高台内の削りも小さく浅くなっています。美濃焼の系統では珍しく、畳付きから高台内にかけても釉薬がしっかりかかっていて、その下に隠れた兜巾の存在感が薄くなっています。

 土見せは殆どありませんが、施釉時の指跡や畳付きの目跡等から赤い陶土の様子が見て取れます。かなり荒い感じの土で、重厚な雰囲気があります。

 掻き銘は「歩」です。この文字だけ見ると下の名前っぽいのですが、実は名字の最後の文字だったりします。前回記事にした塚本治彦の「本」という掻き銘と同様に、ちょっと珍しいパターンです。

 という事で、二十歩文雄の鼡志埜茶碗「雪あかり」でした。作為と無作為、人工と自然、規則性と不規則性の組み合わせ方に現代陶芸らしさを感じさせる良品だと思います。

おわり